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海水淡水化事業考察訪中団を派遣

【活動報告】海水淡水化事業考察訪中団を派遣

~中国の海水淡水化事業の現状と日本企業のビジネス参入の可能性を探る~

 2月7日~11日に、当会では、日本の海水淡水化事業の専門家および関連企業12社・団体25名(団長:(一財)造水促進センター 秋谷常務理事)により『海水淡水化事業考察訪中団』を組織し、中国の海水淡水化事業の現場視察とともに、日本企業のビジネス参入の可能性を検討することを目的に、北京市、河北省唐山市、天津市、浙江省杭州市にある中国の海水淡水化事業を担う中央・地方政府及び有力研究開発機関、関連企業の関係者と意見交流会を行った。
 
国家発展改革委員会資源節約環境保護司節水処との意見交換会議(2/7)
曹妃甸北控阿科凌海水淡水化プラント(2/8)
中国の海水淡水化事業の現状と第12次五カ年計画の方向性
 
 中国の海水淡水化事業は、日本が海水淡水化事業の研究開発を開始したころと同時期の1950年代に開始された。しかし、当時の中国での市場ニーズの低さもあり、技術開発の進展スピードは比較的遅く、70年代には、主にED法と中空逆浸透脱塩技術を研究、80年代には、中空逆浸透膜の生産ラインが完成・産業化を実現、西沙諸島に200t/日のED法海水淡水化プラントを建設する程度の発展状況であった。ところが、90年代には、逆浸透複合膜技術の研究を開始し、97年には浙江省に500t/日の逆浸透海水淡水化モデルプラントを完成・稼動させると、海水淡水化の応用を本格的に開始した。
 
 2000年以降、急速な経済発展とともに生じた深刻な水不足を打開すべく、図表1のとおり沿海地域を中心に続々と数万t/日級の海水淡水化プラントが完成し、中国ブランドの逆浸透膜や圧力容器、高圧ポンプ、エネルギー回収装置等の設備が続々と開発され、実用化されている。これまで、海水淡水化事業は、国家海洋局傘下の天津海水淡水化総合利用研究所と杭州水処理技術研究開発センターが二大巨頭として技術研究開発を牽引してきたが、06年に杭州水処理技術研究開発センターが中国化工集団(CHEM CHINA)の藍星集団(ブルースター)傘下で民営化し、異なる発展を遂げることとなる。
 
図表1
 近年、図表2のとおり、国家海洋局や著名大学の研究所以外にも、海水淡水化事業への民間企業の投資・進出も目覚しく、5年前まで中国国内全体で3万t/日だった処理能力が、現在は66万t/日に達し、第12次五カ年計画(2015年末)には、220~260万t/日規模に拡大する見込みであることから、市場ニーズ、規模の拡大が急速に進展していることがいえる。
 
図表2:中国の海水淡水化分野における代表的な研究開発機構及び設備・エンジニアリング企業
主要研究開発機構名・企業名
得意とする主な海水淡水化技術・設備
杭州水処理技術研究開発中心
UF、NF、RO膜及びプラント技術設計、コンサルティング
国家海洋局天津海水淡水化総合利用研究所
RO、MED及び海水の総合利用技術
北京時代沃頓
RO
天津膜天膜
UF
ブルースター東レ(北京)
RO
中冶連鋳(北京)
ROプラント技術
上海電気
MEDプラント技術:蒸発器、コンデンサ
双良節能(江蘇)
MEDプラント技術:蒸発器、コンデンサ
ハルピン楽普
ROPV
清華大学、浙江大学、天津大学、天津工業大学、河北工業大学、江蘇大学 等
海水淡水化関連技術研究
 さて、今次訪中団にとって、各社ではアレンジの難しいプラント視察や、運営・設計企業と技術・設備の細部にわたる「生きた」情報収集と活発な意見交換を行うことができたことで、参加団員から一定の評価を頂くことができた。訪中前に中国の海水淡水化事業の現状について、インターネット等で情報収集したが、入手できる情報には限界があり、現場とその当事者との直接の意見交換を通じて、中国の海水淡水化事業の現状と抱える課題、今後の可能性について理解することができた。

 例えば、大規模プラントの建設・運営状況である。昨年完成した大型プラントである唐山曹妃甸北控阿科凌海水淡水化有限公司と、天津大港新泉海水淡水化有限公司のプラントについて、関係者のヒアリングと紹介資料をもとに、図表3のとおり比較表を作成した。なお、曹妃甸では「技術的にはほぼ問題がないが、需要者が事業採算に見合うほどおらず、水の価格が決まらないことと、管網の未整備が原因で暫時稼働を停めている」と担当者は話していた。今後、天津や曹妃甸に匹敵する、或いはその規模を超える海水淡水化プラントの建設が第12次五カ年計画では示されていることから、日本企業がどういったアプローチで中国市場に参入していくことで、ビジネスとして成功できるのか考えていきたい。 
 
図表3:曹妃甸・天津の海水淡水化プラントの比較
プラント名
曹妃甸北控阿科凌海水淡水PJ
天津大港新泉海水淡水化PJ
処理能力
5万t/日
10万t/日
稼動日
2011年10月
2009年7月
設計杭州水処理技術研究開発中心
ハイフラックス社(一部設計院)
運営
北控阿科凌海水淡水化有限公司
ハイフラックス社と日揮との合弁会社
処理工程
① 前処理=加圧浮上タンク(中国内で初採用)
② UF×1基(24ユニット)(2,000t/日)
③ RO×5基(1万t/基)
① 前処理=沈殿池(簡単な凝集沈殿)
② UF×3基(27ユニット)
③ RO×7+1基(約1.5t/基)
RO膜
東レ
日東電工(UF膜はハイフラックス社)
エネルギー回収設備
アクアリュング社(ノルウェー)
ERI社
取水
プラントから1.5km離れた渤海湾の海水をポンプで取水
隣接する大港火力発電所の冷却排水(海水)を人工川を通じて取水
濃縮塩水(処理後の廃水)の処理方法
工業塩を製造する企業へ全量送水し、塩ビや製塩
主に近くの塩田にて有効利用
現在の状態
停止中(需要の関係と一部管網の未整備による)
操業中
今後の計画
曹妃甸工業園区の工業用水と、北京へ上水として100万t/日を送水(生活用水)
主に、天津大港区工業団地の工業用水として活用
曹妃甸北控阿科凌海水淡水化プラント(2/8)
天津大港新泉海水淡水化プラント(外観のみ)
海水淡水化産業の第12次五カ年計画の重点と日本企業の協力可能性
 
 2012年2月に国務院から発出された「国務院弁公庁の海水淡水化産業発展加速に関する意見」によると、海水淡水化事業は、国家発展改革委員会が関係13の部門のリーダシップをとって推進すると明言されており、今次訪中団では、その担当部門である資源節約環境保護司節水処の楊尚宝処長と懇談する機会を得ることができた。楊処長は、「第3回、第4回の日中省エネルギー・環境総合フォーラムの分科会で『海水淡水化』をテーマに日中企業間交流を行い、大変盛況だったにもかかわらず、第5回、第6回では、日本側のニーズがないということでテーマにならなかった。しかし、中国には既に大きな市場ニーズがあり、今後も規模拡大が見込まれる中で、日本企業は膜をはじめとした部材・薬剤など個々の技術・設備では優位性があるが、中国内でのシステム全体納入の実績はまだないのが現状。今後の日本企業との合作を歓迎する。」と前向きな発言があった。一方で、RO膜の納入・合弁による開発製造やプラント企業の合弁という形で、中国の海水淡水化プロジェクトに既に参画している日本企業はあるが、システム全体の納入実績はない状況で、「運営経験では師匠である日本に、弟子である中国は学ぶことが多い。今後も情報交換を密にしていきたい。」と天津、杭州の各訪問先で言われるように、日本企業の動向如何によっては、今後、日中間の協力ポテンシャルは非常に高いといえる。 
天津大学海水淡水化膜技術研究中心との意見交換(3/9)
杭州水処理技術研究開発中心との意見交換(3/10)
 さて、海水淡水化産業の第12次五ヵ年計画の重点業務として、図表4のとおり7点が挙げられており、それを推進するために5つの政策措置が計画されている。この中で特に注目すべき点は、「海水淡水化モデルPJの建設」「海水淡水化モデル都市の建設」「処理水の総合利用推進」である。今後も予定される大型プロジェクトへ設計段階から参画することで、日本の先進的な部材・機器の導入、効率的な運営・メンテナンスの一括受注することが可能となるのではないだろうか。運営面では、まだ経験が浅い中国企業に対し、日本の一部企業は中東や日本での運営経験は豊富であり、優位性があるといえる。
 
図表4:海水淡水化産業の第12次五カ年計画の重点と政策措置 
★重点業務
主要内容
①根幹技術と装備の研究開発の強化
・ 大型熱法膜法海水淡水化技術や大型海水循環冷却システ

ム等根幹技術の研究開発


・ 新たな国家級工程技術センターの設立
・ 国際技術協力交流の強化   等
②プラント技術レベルの向上
取水、前処理、淡水化後の処理、濃縮塩水の総合利用に関する技術の研究開発推進
③海水淡水化産業基地の育成
・ 企業を主体とした設計から設備製造まで一貫した産業

基地の建設


・ 国際競争力をもつ設計・プラント企業の育成
④海水淡水化産業連盟の設立
市場原理を導入し、産官学の連携を強化し、産業チェーンの形成を促す
⑤海水淡水化モデルプロジェクトの実施
2015年までに、5~10万t/日のモデルPJを2箇所、1万t/日級のモデルPJを20箇所、濃縮塩水総合利用PJを5箇所建設
⑥海水淡水化モデル都市の建設
2015年までに、全国20都市を海水淡水化モデル都市に指定し、処理水を水源とするモデル工業園区を建設する
⑦海水淡水化処理水の利用推進
製塩産業や化学工業での濃縮塩水の利用推進
★政策措置
①財政・税制政策の支援
海水淡水化モデルPJや公共上水を主要目的としたPJへの積極的な中央財政の支援
②金融・価格支援政策の実施
上場等による民間資本の導入を推進
③法規・基準の整備
資源開発や環境保護、安全保障面に配慮した関連法規・基準を制定
④監督管理の強化
・ 上水網への海水淡水化処理水の送水にかかる基準・制度

を厳格に管理監督


・ 取水や濃縮塩水の放流にかかる環境アセスメント等の実

施  等

⑤宣伝・人材育成の強化
海水淡水化事業の意義について積極的に広報するとともに、従事人員のスキル向上促進
 また、海水淡水化事業は、都市計画と一体となったインフラであり、国家発展改革委員会や関連政府部門の支持がなくては、プロジェクトの成功は見込めない。政府部門との交流を続けながら、地域の特色(例えば、渤海湾の水質や水温に適応した処理プロセス・技術の確立など)に合わせ、設計・運営を担う中国企業との協業を考えた提案が求められるのではないだろうか。また、12-5計画で認定される予定の20箇所の「海水淡水化モデル都市」に関する情報を迅速に把握し、認定された都市の下水処理や工業廃水処理など一連の水処理・供水を一貫して行うアプローチも有効ではないだろうか。 
中国の海水淡水化事業の要である節水処の楊尚宝処長
中国海水淡水化技術研究開発に影響力を持つ天津大学の王世昌教授
 更に、海水淡水化事業のボトルネックである、処理後に排出される「濃縮塩水」の総合利用が、今後の中国の海水淡水化事業発展の鍵を握っている。例えば、2万tの海水淡水化を行うと、約1万tの真水とともに、1万tの濃縮塩水が排出される。現在、その塩水のほとんどを無料で製塩工場或いは化学工場へ送水し処理を行っているが、中国の毎年の食塩市場ニーズは統計によると6,000万tであり、今後計画通り200万t/日に達すると約1億tの食塩が精製され、需要量を大きく上回る計算となる。この試算統計が確かだとすると、濃縮塩水の効率的な処理は、工業廃水や高濃度廃水処理分野で先進的な技術・設備を有する日本の技術優位性を発揮できる分野といえるのではないだろうか。
 
 循環経済、中水利用を推進する方向性から、製塩業や塩化工業との連携を強化することが第12次五ヵ年計画には明記されているが、今後、大規模プロジェクトが増えていく中で、濃縮塩水を低コストで大量に処理できる技術・設備が求められている。ちなみに、日本の沖縄の海水淡水化プラントでは、海上へ噴霧することで濃縮塩水を処理しているとのことだが、閉鎖海域の多い中国では、海洋環境保護法(2000年4月施行)第33条により、海洋への排出が禁止されている。
 
 最後に、今回の意見交換を通じて感じたのは、中国でビジネスを進めていく上で、「コストの低減」と「地域特性に合わせた技術・設備の提供」の重要性を感じた。また、RO膜や、省エネ性能の高いインバーターや発電機など日本の技術優位性を維持しながら、都市計画を踏まえた海水淡水化プラントの運営・メンテナンスを含めたシステム全体の納入が中国では求められていることを改めて認識する機会となった。
 
※今次考察訪中団で同行いただいた専門家(秋谷団長、古市副団長、岩堀副団長)の分析・感想は、日中経協ジャーナル6月号をご覧下さい。 
低温で水質の良くない曹妃甸北控阿科凌海水淡水化プラントの取水口(2/8)
曹妃甸北控阿科凌海水淡水化プラントの設計、EPC受注した杭州水処理技術研究開発中心の張維潤教授(前列左から2人目)らと訪中団員(2/10)
お問合せは日中経済協会 事業開発部 山本・太田まで。
 
(なお、天津新泉海水淡水化廠に関する記述は4/4に修正致しました。) 
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