小規模・分散型排水処理考察団を派遣
小規模・分散型排水処理考察団を北京・上海に派遣
【調査速報】 小規模・分散型排水処理考察団を北京・上海に派遣
■ 派遣概要
日中経済協会は2012年1月16日(月)から20日(金)までの5日間、排水処理等の専門家で構成される考察団(団長:野池達也日本大学教授)を北京、上海に派遣しました。
北京では、農業部規劃設計院並びに国家環境保護技術管理・評価工程技術中心との座談会を行ったほか、緑能生態環境科技有限公司(メタン発酵消化液農業利用現場)を見学し、上海では、上海交通大学が設計・運営する上海市郊外農村生活汚水処理施設を見学しました。
第12次五カ年計画において、今後の中国水ビジネス市場は、都市部から農村部に移るとされています。本団は、こうした市場に対する日本産業界の参入可能性を調査するとともに、日本の既存技術の適合性について考察しました。
■ 名簿
野池 達也 | 日本大学総合科学研究院教授、東北大学名誉教授 |
岡庭 良安 | 社団法人地域環境資源センターバイオマスチームリーダー |
楊 新泌 | 財団法人日本環境整備教育センター 企画情報グループ情報担当チームリーダー |
大土井 克明 | 京都大学大学院農学研究科 地域環境科学専攻生物生産工学講座農業システム工学分野助教 |
野口 英幸 | 福岡県大木町環境課資源循環係主査 |
山本 祐子 | 一般財団法人日中経済協会事業開発部次長 |
澤津 直也 | 一般財団法人日中経済協会業務部主任 |
■ 主な日程
1月16日(月) | 東京→北京 |
1月17日(火) | 農業部規劃設計院との座談会 国家環境保護技術管理・評価工程技術中心との座談会 |
1月18日(水) | 緑能生態環境科技有限公司視察 (北京市郊外(大興区)メタン発酵消化液農業利用現場見学) |
1月19日(木) | 北京→上海 金前村金田、泖甸村泖甸1号汚水浄化ステーション視察 (上海市郊外(青浦区練塘鎮)農村生活汚水処理施設見学) 李旭東上海交通大学農業・生物学院資源・環境科学系副教授 による技術説明 |
1月20日(金) | 上海→東京 |
■ 結果概要
(1) 農業部規劃設計院との座談会
日本側から、以下のテーマで報告を行った。
- 日本の分散型汚水処理システム―浄化槽(楊団員)
- 日本のバイオマス利用の現状と動向(農業集落排水処理との連携)(岡庭団員)
- メタン発酵消化液の液肥利用:日本の経験と課題(大土井団員)
- 環境~食・農を考える 循環のまちづくり(野口団員)
- 下水汚泥と生ごみの混合メタン発酵によるバイオガス生産の増大について(野池団長)
(中国側コメント)
小規模・分散型排水処理技術、メタン発酵の新技術、混合発酵技術は中国にとっても大きな課題の一つ。技術のみならず管理手法、制度作りに参考にしたい。近年大・中型のメタンガス施設が増えてきており、特に消化液の利用、散布車等機械設備の導入、散布技術等の分野で、中日は協力を模索でき、他にもたくさんのマッチング・ファクターがある。
(左)報告を行う野池団長、(右)座談会の様子
(2) 国家環境保護技術管理・評価工程技術中心との座談会
日本側から、上記農業部規劃設計院と同様の報告を行った。
(中国側コメント)
日本の専門家から分散型汚水処理システム、メタンガスの発酵事業、液化利用等について発表があった。中国でも類似した考え方で実施しているプロジェクトもある。浄化槽は、中国でも80~90年代に日中協力の機運があったが中途半端に終わったが、これは課題の一つ。なぜ失敗したのか、理由を考える必要がある。日本の小規模汚水処理について視察したいと思っているが中国に導入する際に、技術はハードよりも制度設計などソフト面にも力を注ぐべき。団長から紹介があった合肥巣湖プロジェクトは事前準備段階で参加したことがあり、関心を持っている。
(その他)
会議後、即日中国水網にレポートが掲載され、中国関係方面に広く広報された。
(左)座談会の様子、(右)中国側出席者。
(3) 緑能生態環境科技有限公司肥料工場視察
環境保護部自然生態司農村環境保護処の手配により、緑能生態環境科技有限公司の北京市郊外(大興区)メタン発酵消化液農業利用現場を見学。
(プロジェクト概要)
この地域におけるメタンガスプロジェクトは、中国全体のメタンガスプロジェクトの歩みを代表するもの。1970年代から各世帯にメタンガスタンクを設置し、消化液を使えるようになるまでに20年以上かかった。メタンガス事業のピークは第9次五カ年計画期。このとき、メタンガス大発展時代を迎え、数万m3の消化液が発生し、環境に影響があるのに処理しきれないことが問題に。小規模で各家庭で管理していたときは各工場で処理していたが、2000m3の工場で100m3が排出されるというのに、その排出先がない。周氏(元北京農業大学教授)らは、若い学生を育成し、30年以上の紆余曲折を経てメタンガス発酵プロセスを開発した。今後の方向性は二次汚染抑制のため、消化液を肥料として活用することに尽きる。その消化液利用は第五世代の段階に到達している。商品としての資料を市場に投入するまでに来ている。設備投資と最適化を行い、ようやく肥料生産にこぎつけた。
本団は、本プロジェクトのガス供給ステーションと液肥生産工場を見学。
(ガス供給ステーション概要)
当該ステーションでは、7つの村、1,800世帯にガスを供給。養鶏場で排出される20~40万羽分の鶏糞を原料にメタン発酵している。消化液は液肥として利用。本プロジェクトは10年以上経過しており、現在第1期~3期が終了。これら3期の工事が中国のメタンガス技術の進化を表している。当初8m3のメタン発酵液から始め、ここまでの規模に達するのに20年かかった。この間、発酵タンクの構造も大規模化した。高温、中温発酵のほか、低温発酵もある。加熱には太陽光パネルを利用。鉄筋コンクリ構造の高温発酵タンクは、1992年から使用されている。昨年頃から、ようやくメタンの産業チェーンが発達してきた。廃棄物からガスへ~ローエンドの使い方から有機物を使って有用化、商業化に転じた。
(左、右)メタンガス供給ステーションの様子
(液肥生産工場概要)
液体を消化するため、ペレット状の肥料も生産。好気性消化液が分離器を通じて運ばれる。タンクでアンモニア酸などを算出させる。現在の製品は土壌の状態や栽培作物や消化液の成分を考慮し、作物によって必要な成分も異なることからオーダーメードで配合している。現在、この液肥生産工場では4種類の肥料を生産している。固体肥料にはペレット状や粉剤状のものもある。これらは、土壌の成長具合や作物に応じて調整している。液肥製品の生産コスト1,200元/トンに対して、卸売り価格は2,000元/トンに設定しており、新疆や内蒙古で買われている。
(左)液肥工場内で説明を受ける、(右)液肥の材料となる鶏糞
(4) 金前村金田、泖甸村泖甸1号汚水浄化ステーション視察
農業部規劃設計院の手配により、上海市郊外(青浦区練塘鎮)の農村生活汚水処理施設を見学。
本プロジェクトは、2つのパートから成る。1つは生物濾過池、もう1つは人工湿地である。処理能力は120トン/日、対象は人口1,000人の生活排水で、竣工は2009年5月。設計基準は、CODが350mg/ℓ、アンモニア窒素が25mg/ℓ、リンが3mg/ℓ。処理された水は中国都市排水基準の1級B、COD=60mg/ℓ、アンモニア窒素15mg/ℓ(12度以下)~8mg/ℓ(夏季)、リンは1mg/ℓ。毎月1回程度モニタリングを行っているが、これらの値は下回っている。政府はサンプリング(抜き取り)調査を3ヶ月に1度程度行う。具体的な処理は人工湿地で行う。COD、リンはここで生物処理される。ここのバイオ濾過池は多層式になっており、普通と異なり、酸素の濃度が高くなる。バイオ濾過池の面積は50m2、人工湿地では1m3の水処理に3m3を使う。処理能力60m3以上になると同じような設備を使用している。処理能力が小さいところでは、このような建物は造らず、個別に処理している。規模の大小こそあるが、2008年から3年間に青浦区で140箇所の施設を建設してきた。
(現場見学後、日中経済協会上海事務所にて李旭東上海交通大学からの技術説明があった)
(左)金田ステーション看板、(右)金田ステーション生物濾過池内。
(左)金田ステーション人工湿地、
(右)泖甸ステーションの全景。
■ 本件お問い合わせ
日中経済協会 山本・澤津 Tel: 03-5511-2514
日中経済協会 山本・澤津 Tel: 03-5511-2514